高齢者や骨粗鬆症の人に多い「圧迫骨折」。ほとんどのケースで、自覚症状がないうちに発症し、自然治癒しています。しかし放置しておくと、脊柱管狭窄症に移行してしまうなどのリスクもあります。最悪の場合、圧迫骨折の後遺症として神経損傷が残ってしまうことも。ここでは圧迫骨折の症状と治療法のほか、後遺症が残ったときに有効とされている再生医療についてもご紹介します。
◆目次
1.圧迫骨折とは
2.腰椎圧迫骨折の原因は
3.腰椎圧迫骨折の症状
4.圧迫骨折の診断方法
5.一般的な圧迫骨折の治療方法
6.圧迫骨折が重症化したら起こるリスク
7.再生医療による椎間板損傷や神経損傷の治療
8.当院の再生医療の流れ
9.費用について
10.再生医療のメリットとデメリット
11.まとめ
┃1.圧迫骨折とは
「圧迫骨折」とは、背骨を構成する椎体が圧迫されて潰れてしまう骨折です。上下方向から力が加わって起きる症状で、主に高齢者や骨粗鬆症の患者が多く、そのほとんどが痛みなどがなく症状に対して無自覚です。複数部位の椎体で圧迫骨折が起きると、背が縮んだり、丸くなったりします。このほか、まっすぐ立てなくなったり、屈む、手を伸ばす、歩くなどの動作が難しくなることもあります。
また、自動車事故や高所からの転落など、外的要因で大きな衝撃を受けたことで圧迫骨折を起こす場合もあります。その際は、急激な痛みが発生し、通常は筋肉の痙攣も見られます。
治療せずに長く放置してしまうと、骨が曲がったり、変形してしまい、いつまで立っても骨がくっつかない「偽関節」になったり、身体を動かすたびに骨が動いて痛みや痺れを引き起こしたりします。また重症の場合は、治療後も後遺症として神経麻痺が残り、寝たきりとなってしまう可能性もあります。
<セルフチェックしてみよう>
- 腰や背中に痛みを感じる
- 寝ている姿勢から起き上がる時に鈍い痛みを感じるが、立ち上がった後は痛みが軽減する
- 骨粗鬆症の診断を受けた
- 怪我をした直後はそこまで痛くなかったが、徐々に痛みが強くなった
- 背中が丸まってきた
- しびれが起きている
- 尻もちを着いたり、物を持ち上げてから痛みが起きた
┃2.腰椎圧迫骨折の原因は?
圧迫骨折の中でも多いのが負荷のかかりやすい腰の骨折です。ここでは主な原因について解説します。
原因 | 詳細 |
---|---|
骨粗鬆症 | 高齢者の原因としては骨粗鬆症が多いです。骨粗鬆症とは、加齢や生活習慣によって骨密度が低下して骨が折れやすい状態のことです。 |
外傷 | 圧迫骨折は外部から力が加わる事が引き起こされ、骨粗鬆でほねがもろくなっていると圧迫骨折を起こしやすくなります。転落事故や交通事故などによる外傷でも生じる事があります。 |
腫瘍によるもの | 腫瘍が転移して骨がもろくなることがあります。 |
┃3.腰椎圧迫骨折の症状
腰椎圧迫骨折の主な症状は、背中や腰の強い痛み、腰痛があげられます。
動くと悪化し、横になると楽になり、歩行がままならないような痛みのことも多いです。
また骨折によってつぶれた椎体が神経を圧迫することで、下肢の痛みやしびれなどの症状が出ることもあります。腰椎圧迫骨折の後遺症としては、慢性的な腰痛、脊椎後彎(背中が曲がり、背中を伸ばしにくくなる)、姿勢が悪くなり転倒しやすくなります。
┃4.圧迫骨折の診断方法
圧迫骨折の診断は、症状や画像検査だけでなく、病歴や触診など多面的に診察し、判断します。ここでは問診や病歴の聞き取り以外の診断方法についてご紹介します。
<視診と触診>
背中や腰の視診を行ったあと、姿勢の変化や筋肉の緊張度合い、張れなどを確認します。圧迫骨折の疑いのある場合は、背中の中央に沿って優しくたたき、痛みや不快感があるか確認します。
<神経学的検査>
筋力や感覚、反射の評価を行い、神経の異常がないか確認をします。神経症状がある場合は、どの部位でどれだけ影響を受けているのか診断します。
<画像診断>
診断したい内容によって、様々な画像審査を行います。
検査方法 | 詳細 |
---|---|
レントゲン検査運動療法 | 椎骨の形状変化の有無や、骨折部位を確認するために使用されます。椎体の前方が楔形に潰れているのが、圧迫骨折の特徴的なポイントです。 |
MRI | 骨折の細かい評価や、神経への圧迫の有無を確認するために使用されます。 |
CTスキャン | 骨折の具体的な構造を確認する際に使用します。 |
骨密度測定 | 骨粗鬆症の診断や、骨密度の評価を行います。気が付かないうちに圧迫骨折を起こしていた際の原因特定や治療方針の決定に役立ちます。 |
┃5.一般的な圧迫骨折の治療方法
圧迫骨折のほとんどは、ゆっくりではあるものの、自然に治癒します。治療法には、一般的に下記のような方法があります。
検査方法 | 詳細 |
---|---|
薬物療法 | 痛みを緩和して、安静に過ごします。 |
装具療法 | 圧迫骨折が腰など背骨の中でも低い位置で起きた場合は、痛みを軽減するためコルセットを装着します。 |
リハビリテーション | 痛みが緩和してきたら、物を持ち上げるときの正しい方法や、脊椎周辺の筋肉を鍛える運動を行います。 |
手術 | 痛みの緩和や、身長の回復、見た目の改善のために「椎体形成術」や「バルーン椎体形成術」が行われることがあります。いずれも潰れた椎骨にアクリル樹脂の骨セメントを注入し、骨折を安定化します。 |
┃6.圧迫骨折が重症化したら起こるリスク
圧迫骨折が重症化した場合、骨が潰れたことで脊髄神経が圧迫されて、「脊柱管狭窄症」が生じる場合があります。脊柱管狭窄症は名前の通り、脊柱管が狭まってしまった状態のこと。椎間板がヘルニアになったり椎骨が変形したりして脊髄神経が圧迫されると、痺れや痛みなどの運動障害が起こることもあります。
症状が進行すると、仰向けになっても足のしびれが起きてしまい、横向きの状態で背中を丸めないと眠れなくなったり、排尿・排便障害を起こすこともあります。
脊髄神経は自己修復能力がなく、傷つくと自然に再生することができない部分です。そのため、手術などで痛みの根本原因は取り除いても、長年の刺激で過敏になった痛覚はそのままの状態になってしまい、慢性的な痛みに悩まされる場合も少なくありません。しかし、近年は再生医療の発展によって、改善の見込みが出てきました。
┃7.再生医療による椎間板損傷や神経損傷の治療
脊椎固定術やバルーン椎体形成術など従来の手術法では、圧迫骨折によって併発してしまった椎間板の損傷は修復できないため、腰椎の変形や椎間板ヘルニアが治療後に再発する可能性があります。また、これまでは神経細胞の再生や回復は難しいと考えられていたため、神経系の損傷が痛みの原因になっている場合は、根治が難しいとされていました。しかし近年、再生医療の研究が進展し、椎間板、神経細胞も再生できる可能性が高まってきています。
再生医療とは、自身の細胞や組織を活用して、損傷した部位の治療を図る方法です。再生医療にはさまざまな種類があり、実際に手術後の後遺症が改善した事例もあります。また椎間板の変形自体を修復できれば、骨の変形や黄色靭帯の肥大、脊柱管狭窄症の悪化といった神経圧迫に関わる症状の予防にもなります。
椎間板機能を回復させる再生医療には「PDR(経皮的椎間板再生治療)」があります。また神経細胞の損傷部位を修復させる再生医療として「幹細胞治療」「PRP療法」「幹細胞上清液治療」があり、投与するには神経根(脊髄の枝)局所投与と髄腔内投与があります。
<PDRとは>
PDRは経皮的椎間板再生治療ともいい、損傷した椎間板を再生する治療方法です。患者の血液から濃縮血小板由来の成長因子を抽出し、濃縮血小板由来の成長因子と幹細胞上清液を穿刺針で椎間板に挿入。透視装置を使って損傷した椎間板に成長因子と幹細胞上清液を投与します。PLDDと併用することも可能で、日帰りで手術を受けることができます。
<幹細胞治療・幹細胞上清液治療とは>
幹細胞は身体の修復や再生が必要なときに自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなる細胞です。体の修復能力を持つので、これまで難しかったとされる症状も治すことができると注目を集めています。
幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。
幹細胞を使った再生医療は、患者自身の体から採取した脂肪細胞をもとに幹細胞を培養。それを患部に注入し、神経細胞の修復を試みます。
FBSSの治療においては下記の幹細胞治療・幹細胞上清液治療方法があります。
【神経根(脊髄の枝)局所投与】
- 幹細胞培養上清神経修復治療:SNT(Stem Cell Supernatant nerve repair treatment)
【髄腔内投与投与】
- 幹細胞培養上清髄腔内投与:SCI (Stem Cell Supernatant intraspinal injection)
- 脂肪由来幹細胞 髄腔内投与:ASI(Adipose derived Stem cell intraspinal injection)
<PRP療法とは>
患者自身から採取した血液の血小板の濃度を高めて「PRP(多血小板血漿)」を作り、これを患者の自身の身体の傷んでいる部位に注入することで、その修復を促す治療です。歯科や形成外科、整形外科など、幅広い領域で行われています。
血小板が持つ成長因子はその組織が本来持っている修復機能を引き出す力があるので、その特性を利用しています。
FBSSのPRP治療においては下記の投与方法があります。
【神経根(脊髄の枝)局所投与】
- PRP神経修復治療:PNT(Platelet Rich Plasma nerve repair treatment)
<再生医療の投与方法について>
【髄腔内投与とは】
脊髄腔(せきずいくう)に薬剤を注入する治療法で、腰椎穿刺(ようついせんし)と呼ばれる方法で、腰椎(ようつい)の間に針を刺します。
【神経根局所投与とは】
神経根に直接薬剤を注入する治療法です。針で神経根周囲にアプローチして薬剤を注入します。針が神経に届くと、神経の走行に沿った場所に痛みが誘発されます。
┃8.当院の再生医療の流れ
当院で行っている幹細胞治療、幹細胞上清液治療、PRP療法の流れを紹介します。
<①カウンセリング>
事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。
<②検査>
感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。
<③脂肪・血液採取>
腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです。
<④幹細胞の培養・PRPの抽出>
幹細胞を使った治療の場合、脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。PRP療法の場合、採血を行い、その後遠心分離機にかけて、PRP(多血小板結晶)を抽出します。
<⑤幹細胞・PRPの神経根局所投与、髄腔内投与>
培養した幹細胞や、抽出したPRPを脊髄の枝である神経根に局所投与もしくは髄腔内に投与します。
<⑥経過観察>
その後の効果について定期的に経過観察を行います。
┃9.費用について
当院の治療メニューと料金をご紹介します。
項目 | 価格 |
---|---|
医師による診察・カウンセリング | 11,000円 |
感染症検査(採血) | 11,000円 |
PRP神経修復治療 | 1か所550,000円 |
幹細胞培養上清神経修復治療 | 1か所440,000円 |
幹細胞培養上清髄腔内投与 | 1か所550,000円 |
脂肪由来幹細胞髄腔内投与 | 1回1,980,000円 |
※すべて税込み
┃10.再生医療のメリットとデメリット
再生医療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。
<メリット>
- 患者自身の細胞を使っているので安全性が高く、副作用が少ないです
- 今までは対応が難しかった症例も根本的に治療ができる可能性があります
- 入院の必要がなく、外来で治療をすることができます
<デメリット>
- 自由診療のため保険が適応されません
- 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
- 患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります
┃11.まとめ
神経細胞のように傷つくと自然に再生しない機能も、再生医療の発展によって回復できるようになってきました。数十年前には「難しい」と断られてしまった症状でも、今では治すことができるかもしれません。圧迫骨折による後遺症に悩まれている方は、当院にお気軽にご相談ください。
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【参考文献】
・胸腰椎圧迫骨折の臨床経過と予後予測
・骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折に対する治療