脊椎幹細胞移植術「SAST」

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脊椎幹細胞移植術「SAST」とは?

SASTについて

SASTとは「spine adipose-derived stem cell transplant」の略称で、「脊椎幹細胞移植術」とも言われます。椎間板や頸椎、腰椎に対して脂肪由来幹細胞を移植することで、損傷した組織の再生、修復を促して腰痛の改善を図ります。

治療に使う脂肪由来幹細胞は患者自身から摂取した脂肪を元に培養します。そのため体に戻したときにも副作用のリスクが低くいのも特徴です。

脂肪由来幹細胞の培養

脂肪由来幹細胞とは

私たち人間の体では、毎日細胞が作られ、死滅しています。その恒常性維持機能によって毎日細胞が入れ替わっているのです。その死滅した細胞の再生に不可欠なのが幹細胞。幹細胞は身体の修復や再生が必要なときにも、自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなります。

また幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞への分化が可能な細胞です。腫瘍化のリスクは低いと言われており、現在は脊髄損傷や造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病の治療用として承認されている再生医療等製品もあります。

幹細胞の中でも、体の皮下脂肪組織の中に含まれる幹細胞「脂肪由来幹細胞」は、様々な組織の細胞に変化する「分化能」と組織に新しい血管を作らせたり、細胞を増殖させたりする「自己複製能」という主に2つの働きを持っています。再生医療では、この能力を利用して、これまで修復が難しいとされていた組織の回復を行います。

また脂肪由来幹細胞には炎症を鎮める「抗炎症作用」や活性化している免疫細胞を抑える「免疫抑制作用」、自己免疫疾患などで崩れてしまった免疫バランスを整える「免疫調整作用」などの働きも確認されています。

幹細胞が腰痛を改善させるプロセス

腰痛の原因は様々ありますが、多くの原因が腰回りの組織が損傷していることで炎症を起こし、痛みとなって体に現れます。これまで椎間板やその周りの組織などは修復が難しいとされてきましたが、再生医療研究の進展によって、幹細胞での治療が効果を発揮することがわかってきました。

SASTでは椎間板や頸椎、腰椎など患部に脂肪由来幹細胞を打ち込むことで、脂肪由来幹細胞自身の持つ栄養作用によって組織を再生させます。幹細胞にはホーミング効果といって、老化したり、損傷を受けた細胞や組織に集まる習性を持っているので、効率よく細胞を再生、修復を行い、腰痛の軽減を期待することができます。

SASTの特徴

①他の腰痛治療との併用が可能

SASTは他の腰痛を改善する日帰り手術と併用することが可能です。なお、当院では国内で唯一、SASTなどの再生医療と他の腰痛改善のための手術を行っています。

②日帰りでの治療が可能

脂肪由来幹細胞を打ち込む施術は30分程度。一度脂肪を採取すれば、それを元に脂肪由来幹細胞を培養していくので再採取することはありません。

⓷運動制限が少ない

治療の翌日から日常生活を送ることができます。スポーツなどの激しい運動は、治療1か月後から可能です。

SASTに対応している腰の症状

各症状に対して、これまでの治療方法との併用が可能です。

椎間板ヘルニア

背骨の腰の部分にある椎間板が変性して神経を圧迫することで、腰痛や足のしびれ、麻痺などの症状を引き起こす病気です。

>>椎間板ヘルニアについて詳しく見る

腰部脊柱管狭窄症

腰部脊柱管狭窄症とは、背中側の黄色靭帯の肥厚、椎間板ヘルニア、椎骨の変形・突出などによって、脊柱管が狭くなった状態です。痺れや痛みが発生します。

>>椎間板ヘルニアについて詳しく見る

椎間板変性症

椎間板変性症とは、何らかの原因によって椎間板が損傷を負い変性し、腰痛などの症状を引き起こす病気です。

>>椎間板変性症について詳しく見る

すべり症

背骨を構成する椎骨が、何らかの原因によってズレることを「すべり症」といいます。

>>すべり症について詳しく見る

分離症

腰椎において椎弓が分離してしまった状態を指します。背中を反らす動作、ジャンプしたときの着地などによる負荷が重なり、疲労骨折して発症するものと考えられます。

>>分離症について詳しく見る

腰椎不安定症

腰椎の骨同士をつなぐ椎間板や靭帯、関節などに障害が起き、骨同士がグラグラと動いてしまう状態です。

腰椎変性側弯症

加齢に伴って椎間板や椎間関節が変性して背骨が曲がってしまう脊椎疾患です。

メリットとデメリット

メリット

  • 負担が少なく、日帰りでの治療が可能です
  • 椎間板などの組織の再生を促進するので根本的な治療ができます
  • 手術を回避または延期できる可能性
  • 患者自身から採取した幹細胞を培養して治療箇所に移植するため、拒否反応などの副作用が起こる可能性が低いです
  • 幹細胞には炎症を抑える効果のある物質を分泌する性質があり、炎症を抑えることにより症状の悪化を防ぐ効果が期待できます
  • 低侵襲なので高齢者など手術のリスクが高い患者でも治療が可能です
  • 脂肪採取時の傷痕は小さいので目立ちにくいです

デメリットとリスク

  • 先端医療で研究段階のものもあるため、十分な効果を得られない場合もあります
  • 保険適用外なので、自費治療となります
  • 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
  • 患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります
  • 治療後は内出血や腫れ、発赤、疼痛、かゆみ、変色、圧痛が発生することがあります
  • ごく稀に椎間板の容量が増えたことによって周りの筋肉や関節、靭帯などが広がり、筋肉痛や腰の違和感が出現することがあります

費用

項目 費用(税込)
診察料 11,000円
血液検査 16,500円
自己脂肪由来間葉系幹細胞投与(1回1億個) 1箇所につき1,980,000円
細胞保管費用(2年目以降) 44,000円

幹細胞治療の流れ

幹細胞治療を行う際には、主に下記のような流れで治療を進めていきます。

①専門医によるカウンセリング

専門医によるカウンセリング

最適な治療法をご提案。事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。

②検査

検査

感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。

③脂肪採取

脂肪採取

腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです。

④幹細胞の培養

幹細胞の培養

脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約6週間を要します。

⑤幹細胞を投与(椎間板や頸椎、腰椎に投与)

幹細胞投与

培養した幹細胞を患者様の症状にあわせて椎間板や頸椎、腰椎に投与します。

⑥経過観察

経過観察

その後の効果について定期的に経過観察を行います。

まとめ

椎間板再生医療は、慢性的な腰痛や神経症状に苦しむ患者にとって希望の光となる治療法です。幹細胞治療やPDR(PRP療法),幹細胞上清液治療など、最新の先端技術を活用した治療法が登場しており、これまで標準治療が難しかったケースにも対応可能で根治治療が可能です。

【参考文献】Stem Cells and Exosomes: New Therapies for Intervertebral Disc Degeneration Cells. 2021 Aug 29;10(9):2241.