院長ブログ

2025.02.11

腰痛の手術をしたのに痛い「FBSS」について徹底解説!再生医療を使った治療法もご紹介

「FBSS」という言葉をご存じでしょうか? 1970年代から論文が発表され始めた病態で、腰痛を手術で治療したにも関わらず、痛みやしびれが改善されない、もしくは悪化した状態を指します。発症率も高く、難治性の症状として知られています。しかし近年の再生医療の研究により、改善するかもしれないという希望が出てきました。ここではFBSSについての解説と、再生医療を使った治療方法についてご紹介します。

┃1.FBSSとは?

「FBSS」はfailed back surgery syndrome(フェイルドバックサージャリー症候群)の略称で、日本語では脊椎術後疼痛症候群と言われています。脊椎の手術をした後も、腰や下肢に痛みやしびれが残ってしまう症状で、疾患名ではなく、病態を指す言葉として使われています。FBSSは1970年代後半から論文などで取り上げられるようになりました。症状自体は認知されており、発生率は10%~20%程度と考えられており、手術方法によって異なります。ボルトなどを入れて脊椎を固定する手術で40%前後と推定されています。

┃2.FBSSが起こる原因

FBSSの原因は行った手術方法や、治療方法によって様々考えられます。

不正確な診断 診断自体が不正確で、腰痛の根本的な原因を取り除けていない状態
手術後合併症 神経損傷、感染症、出血、髄液漏、麻酔に伴う合併症
神経後遺症 慢性的な神経圧迫によって神経が損傷しており自然治癒しない状態
神経癒着 神経周囲に炎症が起こり、その周囲の組織と癒着してしまった状態
術後の病態変化 手術箇所やその周囲に炎症が起きてしまった状態
精神的要因 不安や抑うつなどのストレスによって引き起こされる痛み

┃3.FBSSの一般的な治療方法

FBSSがなぜ起きているのか、再度、検査・診断して原因を特定して治療計画を立てます。しかし、硬膜外ブロックや神経根ブロックでFBSSの痛みを緩和することは難しく、有効な治療法が確立していないのが現状です。

再手術 腰痛の根本原因を取り除けていない場合や、別の症状が確認できた場合に行います
薬物療法 硬膜外ブロックや神経根ブロックなどで痛みの緩和を図ります
リハビリテーション ストレッチをして筋肉の緊張をほどいたり、筋力強化することで痛みの改善を図ります
認知行動療法(CBT) 物事の考え方や行動に働きかけて、ストレスを軽減する心理療法です
インターベンショナル治療 カテーテルや針を用いて治療します。(痛み緩和の場合…神経ブロック、硬膜外ブロックなど/神経癒着の場合…硬膜外腔癒着剝離術(spinal cord stimulation:SCS))

┃4.再生医療を使ったFBSS治療の提案

これまでの一般的な治療法ではFBSSを治すのが難しいとされてきた大きな要因の1つに「神経の回復が難しいから」というものがありました。

<神経後遺症が起こる原因>

  • 長期間にわたって脊髄神経が圧迫されていた
  • 手術によって神経そのものが治療されていない
  • 手術後に瘢痕組織が増幅した
  • 手術前と手術後で背骨の動きに変化が起こった

>>神経の損傷が痛みや痺れを引き起こすプロセスについて

これまでは神経細胞の再生や回復は難しいと考えられていたため、神経系の損傷が原因の場合は、根治が難しいとされていました。しかし近年、再生医療の研究が進展し、神経細胞も再生できる可能性が高まってきています。

再生医療とは、自身の細胞や組織を活用して、損傷した部位の治療を図る方法です。再生医療にはさまざまな種類があり、実際に手術後の後遺症が改善した事例もあります。

神経細胞の損傷部位を修復させる再生医療として「幹細胞治療」「PRP療法」「幹細胞上清液治療」があり、投与するには神経根(脊髄の枝)局所投与と髄腔内投与があります。

<幹細胞治療・幹細胞上清液治療とは>

幹細胞は身体の修復や再生が必要なときに自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなる細胞です。体の修復能力を持つので、これまで難しかったとされる症状も治すことができると注目を集めています。

幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。

幹細胞を使った再生医療は、患者自身の体から採取した脂肪細胞をもとに幹細胞を培養。それを患部に注入し、神経細胞の修復を試みます。

FBSSの治療においては下記の幹細胞治療・幹細胞上清液治療方法があります。

【神経根(脊髄の枝)局所投与】

  • 幹細胞培養上清神経修復治療:SNT(Stem Cell Supernatant nerve repair treatment)

【髄腔内投与投与】

  • 幹細胞培養上清髄腔内投与:SCI (Stem Cell Supernatant  intraspinal injection)
  • 脂肪由来幹細胞 髄腔内投与:ASI(Adipose derived Stem cell intraspinal injection)

>>幹細胞治療のメカニズム

<PRP療法とは>

患者自身から採取した血液の血小板の濃度を高めて「PRP(多血小板血漿)」を作り、これを患者の自身の身体の傷んでいる部位に注入することで、その修復を促す治療です。歯科や形成外科、整形外科など、幅広い領域で行われています。

血小板が持つ成長因子はその組織が本来持っている修復機能を引き出す力があるので、その特性を利用しています。

FBSSのPRP治療においては下記の投与方法があります。

【神経根(脊髄の枝)局所投与】

  • PRP神経修復治療:PNT(Platelet Rich Plasma nerve repair treatment)

<再生医療の投与方法について>

【髄腔内投与とは】

脊髄腔(せきずいくう)に薬剤を注入する治療法で、腰椎穿刺(ようついせんし)と呼ばれる方法で、腰椎(ようつい)の間に針を刺します。

【神経根局所投与とは】

神経根に直接薬剤を注入する治療法です。針で神経根周囲にアプローチして薬剤を注入します。針が神経に届くと、神経の走行に沿った場所に痛みが誘発されます。

┃5.当院の再生医療の流れ

当院で行っている幹細胞治療、幹細胞上清液治療、PRP療法の流れを紹介します。

<①カウンセリング>

事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。

<②検査>

感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。

<③脂肪・血液採取>

腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです。

<④幹細胞の培養・PRPの抽出>

幹細胞を使った治療の場合、脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。PRP療法の場合、採血を行い、その後遠心分離機にかけて、PRP(多血小板結晶)を抽出します。

<⑤幹細胞・PRPの神経根局所投与、髄腔内投与>

培養した幹細胞や、抽出したPRPを脊髄の枝である神経根に局所投与もしくは髄腔内に投与します。

<⑥経過観察>

その後の効果について定期的に経過観察を行います。

┃6.費用について

当院の治療メニューと料金をご紹介します。

項目 価格
医師による診察・カウンセリング 11,000円
感染症検査(採血) 11,000円
PRP神経修復治療 1か所550,000円
幹細胞培養上清神経修復治療 1か所440,000円
幹細胞培養上清髄腔内投与 1か所550,000円
脂肪由来幹細胞髄腔内投与 1回1,980,000円

※すべて税込み

┃7.再生医療のメリットとデメリット

再生医療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。

<メリット>

  • 患者自身の細胞を使っているので安全性が高く、副作用が少ないです
  • 今までは対応が難しかった症例も根本的に治療ができる可能性があります
  • 入院の必要がなく、外来で治療をすることができます

<デメリット>

  • 自由診療のため保険が適応されません
  • 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
  • 患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります

┃8.まとめ

神経細胞のように傷つくと自然に再生しない機能も、再生医療の発展によって回復できるようになってきました。数十年前には「難しい」と断られてしまった症状でも、今では治すことができるかもしれません。FBSSに悩まれている方は、当院にお気軽にご相談ください。

再生医療

幹細胞治療

PRP療法

┃YouTubeでも医療知識を紹介しています

今回の内容はYouTubeでも田中院長がお話ししています。そのほかにも様々ありますので、ぜひご覧ください。



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