「パーキンソン病」とは、脳の神経細胞に変性が起きることで、ドーパミンの放出量が減少し、身体に震えが現れるほか、運動の遅延、姿勢のバランス維持などが難しくなっていく病気です。現在は根本治療が難しいとされていました。しかし、近年の再生医療の研究が進んだことで、根本的な治療の可能性が高まっています。ここでは、パーキンソン病のこれまでの治療法と、再生医療の中でも「幹細胞」を使った治療法についてご紹介します。
◆目次
1.パーキンソン病とは
2.パーキンソン病のこれまでの治療法
3.パーキンソン病治療で注目を集める再生医療
4.当院の幹細胞治療の流れ
5.費用について
6.幹細胞治療のメリットとデメリット
7.まとめ
┃1.パーキンソン病とは
パーキンソン病とは、脳の中でも筋肉の制御を行う「大脳基底核」の「黒質」と呼ばれる部位の神経細胞が、だんだんと変性していく病気です。脳の機能を司る中枢神経系の変性疾患の1つで、アルツハイマー病の次に多い病気です。日本においては1000人のうち1人~1.8人が罹患しており、年齢とともにその割合は高くなっていきます。
主な症状として、筋肉が安静な状態にあるにもかかわらず震えが起きたり(安静時振戦)、筋肉のこわばり、表情や瞬き、歩く、話すなどといった自分の意思に基づいて行う運動の遅延、バランス維持が難しくなるなどが見られます。また進行が進むと、患者の多くが認知症を発症します。
現時点では根治できる治療法がありません。そのため、パーキンソン病は国の定める指定難病で、医療費助成の対象となります。
┃2.パーキンソン病のこれまでの治療法
パーキンソン病において現時点では、根治できる治療法はありません。症状を緩和したり、進行を遅らせたりする対処療法が一般的です。様々な治療法があり、患者の年齢や進行の程度によって治療計画を立てていきます。ここでは、一般的な治療方法について解説します。
<薬物療法>
パーキンソン病には基本的に薬物療法で対処します。減少したドーパミン量を補うことで、脳内のドーパミン量を正常値に近い数値にして、症状を緩和します。身体の状態や、進行具合、年齢などから、様々な薬を組み合わせて治療を行います。
主な薬剤 | 詳細 |
---|---|
L-ドパ(レボドパ) | 最もよく使われるパーキンソン病治療薬です。L-ドパは、ドーパミンを作る手助けをする薬剤で、脳内のドーパミン量を維持し、病気の進行を遅らせることができます。ただし、L-ドパを服用している期間もドーパミンを貯蔵する神経細胞自体の変性は進行していきます。脳内に十分なドーパミンを維持できなくなってしまうと、L-ドパ服用後2~3時間で効果が切れてしまい、動けなくなることがあります。このほか、神経系が過敏になり、身体が勝手に動いてしまう(ジスキネジア)という症状が出ることがあります。 |
ドパミンアゴニスト | L-ドパのデメリットである薬効の変動や、ジスキネジアが生じにくい薬です。しかし、L-ドパに比べて服用から効果が出るまで時間がかかってしまうほか、吐き気や幻覚、妄想などが現れます。 |
抗コリン薬 | 神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを阻害して、副交感神経の働きを抑える薬剤です。高齢者が抗コリン薬を飲むと、物忘れや幻覚など認知機能障害が出ることがあります。 |
塩酸アマンタジン | 脳梗塞後遺症の治療や、抗A型インフルエンザウイルス剤としても使われている薬剤です。脳内でドーパミンを放出・合成する作用があります。 |
ゾニサミド | てんかんの治療薬として使われていましたが、2009年からパーキンソン病にも認可がおりた薬です。L-ドパと併用で使われる薬剤で、薬効の変性や振戦に有効です。 |
アデノシン受容体拮抗薬 | 日本で開発された薬。L-ドパと併用することで薬効の変性を軽くする作用があります。 |
モノアミン酸化酵素-B(MAO-B)阻害薬 | ドーパミンの分解を抑制し、併用するL-ドパの効果を延長させる薬です。しかしジスキネジアが悪化する可能性があります。 |
カテコール-O-メチル転移酵素(COMT)阻害薬 | L-ドパと併用する薬で、L-ドパが脳内にたくさん入るようにする薬です。 |
ドロキシドパ | パーキンソン病の症状の1つである、足のすくみに対応する薬です。 |
<リハビリテーション>
薬物療法で改善した運動機能を維持するため、リハビリテーションも重要視されています。姿勢維持に役立つストレッチなどがあります。
<手術>
パーキンソン病における手術として、脳深部刺激療法があります。脳深部刺激療法とは、脳内に刺激電極を挿入し、脳の一部の組織を持続的に電気刺激を与える事でパーキンソン病の症状を抑える治療です。視床下核や淡蒼球という脳の深い場所を刺激します。
┃3.パーキンソン病治療で注目を集める再生医療
パーキンソン病の根本的な原因は脳の一部である大脳基底核の黒質が変性を起こし、機能しなくなることです。これまでは、神経細胞の再生や回復は難しいと考えられていたため、対処療法で進行を遅らせることしかできていませんでした。しかし近年、再生医療の研究が進展し、神経細胞も再生できる可能性が高まってきています。
神経細胞の再生には「幹細胞」を使います。
<幹細胞治療とは>
幹細胞は身体の修復や再生が必要なときに自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなる細胞です。体の修復能力を持つので、これまで難しかったとされる症状も治すことができると注目を集めています。
幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。
パーキンソン病の治療では、患者自身の体から採取した脂肪細胞をもとに幹細胞を培養。それを静脈投与、脊髄腔内投与で患部に注入し、神経細胞の修復を試みます。
<幹細胞治療がパーキンソン病に治療効果を発揮する原理>
静脈内に幹細胞を投与することで、幹細胞が血管内を移動しパーキンソン病で変性した脳に到達することが出来ます。それにより、幹細胞が変化した神経細胞を分化した健康な細胞と置き換えることができ、ドーパミンの放出する細胞になり、治療することが可能になります。また、静脈内投与された幹細胞は、炎症を抑える物質を増加させると報告されており、神経細胞が病気の進行で炎症反応することを抑制するメリットもあります。それらが相互に働くことで、幹細胞治療は効果が発揮されることが分かっています。
パーキンソン病は、加齢や遺伝子とも関連しているので、年をとっていくと誰でもパーキンソン病になる可能性があります。そのためパーキンソン病に対しては、個別の治療が必要になり、オーダーメイドの治療として役立つのはご自身の幹細胞を用いた幹細胞治療なのです。幹細胞を注入することで、変性部位や病変部位に到達した幹細胞はドーパミンを放出する細胞に置き換わり、ドーパミンの放出量を増やし、パーキンソン病を治療します。文献によれば、標準治療薬であるレボドパよりも、幹細胞治療の方が、臨床的な改善度合いが優れており、パーキンソン病の治療に幹細胞治療が効果的であることが分かりました。
┃4.当院の幹細胞治療の流れ
当院で行っている幹細胞治療の流れを紹介します。幹細胞治療を行う際には、主に下記のような流れで治療を進めていきます。
<①カウンセリング>
事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。
<②検査>
感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。
<③脂肪採取>
腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです。
<④幹細胞の培養>
脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。
<⑤幹細胞の静脈内投与、局所投与>
培養した幹細胞を点滴、局所に投与します。
<⑥経過観察>
その後の効果について定期的に経過観察を行います。
┃5.費用について
当院の治療メニューと料金をご紹介します。
項目 | 価格 |
---|---|
医師による診察・カウンセリング | 11,000円 |
感染症検査(採血) | 11,000円 |
幹細胞点滴(1億個) | 1,650,000円 |
┃6.幹細胞治療のメリットとデメリット
幹細胞治療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。
<メリット>
- 患者自身の細胞を使っているので安全性が高く、副作用が少ないです
- 今までは対応が難しかった症例も根本的に治療ができる可能性があります
- 入院の必要がなく、外来で治療をすることができます
<デメリット>
- 自由診療のため保険が適応されません
- 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
- 患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります
┃7.まとめ
神経細胞のように傷つくと自然に再生しない機能も、再生医療の発展によって回復できるようになってきました。数十年前には「難しい」と断られてしまった症状でも、今では治すことができるかもしれません。パーキンソン病治療に悩まれている方は、当院にお気軽にご相談ください。
【参考資料・論文】
・一般社団法人 日本神経学会 ガイドライン
・パーキンソン病・本能性振戦の手術療法 脳深部刺激療法(DBS)
・パーキンソン病に対する多能性幹細胞を用いた細胞移植治療の現状
・パーキンソン病に対する幹細胞治療①
・パーキンソン病に対する幹細胞治療②
・Parmar M. et al. The future of stem cell therapies for Parkinson disease , Nature reviews neuroscience, 2020
・製薬会社のバイエル社は、子会社がおこなったパーキンソン病に対する幹細胞治療の結果を発表(BlueRock’s Phase I study with bemdaneprocel in patients with Parkinson’s disease meets primary endpoint)
・Effects of intravenous human umbilical cord blood CD34+ stem cell therapy versus levodopa in experimentally induced Parkinsonism in mice