腹膜播種(ふくまくはしゅ)という病気をご存じでしょうか? 聞きなれない言葉かもしれませんが、胃がんや大腸がん、卵巣がんなどの半数近くが腹膜播種に伴う症状に苦しめられると言われています。がん患者にとって決して珍しくない「腹膜播種」について、どんな病気なのかとともに、近年出てきた治療方法など詳しく解説していきます。
┃1.腹膜播種って何?
腹膜播種(ふくまくはしゅ)とは、癌が腹膜に転移した状態を指します。腹膜とは胃や腸などの臓器とお腹の壁の内側を覆っている薄い膜のことで、臓器の動きを滑らかにしたり、臓器を保護したりするほか、浸出、漏出、分泌などの生理作用の働きを持っています。
癌が腹膜に転移すると、種が撒かれたようにお腹の中にがん細胞が散らばることから腹膜播種という名称が付きました。胃がんやすい臓がん、大腸がん、卵巣がんなどからの転移が多く見られ、リンパ節転移や肝転移と並び、最も起こりやすい転移の一つでもあります。
┃2.腹膜播種の症状、進行について
胃がんを例に挙げて、進行段階ごとに解説します。
<初期:顕微鏡的腹膜播種>
がん細胞が、胃の内側の粘膜で発生すると、細胞分裂によって次第に大きくなっていきます。大きくなるにつれて、がん細胞は胃の壁の深い方に入っていきます。
大きくなったがん細胞は胃の壁を貫いて、胃の外側を覆う膜に出ていきます。胃の外側に出たがん細胞は、胃の壁の表面から腹膜で覆われた空間である「腹腔(ふくこう)」の中にこぼれ落ち、がん細胞は腹膜へ転移するのです。この状態を「顕微鏡的腹膜播種」と言います。
【検査方法】
この段階ではCT画像などでも確認が難しいので、手術で腹腔内に生理食塩水を注入後、しばらくして体液を回収して顕微鏡で観察する「洗浄細胞診」という検査を行います。この検査で陽性反応があった場合は、腹膜や胸膜にがん細胞が転移している可能性が高いと考えられます。
<進行期:肉眼的腹膜播種>
筋力の低下によるものなのか、それとも神経などが圧迫されて起きている痛みなのかを調べるためにいくつか神経学的検査を行います。
腹膜に付着したがん細胞が、細胞分裂を繰り返して目に見える大きさの塊になったものを「肉眼的腹膜播種」と言います。この段階になると腹部が張った感じになったり、便秘、腹痛などの自覚症状が出てきます。
【主な自覚症状】
- 便秘
- 腹痛
- 腹部膨満感
- 吐き気
- 嘔吐 など
【検査方法】
肉眼的腹膜播種であれば、超音波検査やCT検査でも見つけられるようになります。
<末期:癌性腹膜炎>
小腸や大腸の通りが悪くなる腸閉塞を発症したり、胆管が狭くなることで黄疸が出てくるなどの症状が出る「癌性腹膜炎」という病態になります。ここまで腹膜播種が進行すると治療を進めるのがかなり難しく、予後の見通しが立てづらくなります。
【主な合併症】
病名/症状 | 具体的な状態 |
---|---|
腸閉塞 | 小腸や大腸の通りが悪くなる |
黄疸 | 胆管が狭くなることで、本来は便とともに排出されるビリルビン(黄色の色素)が体外に排出されず、血液中のビリルビンが過剰になって皮膚や粘膜に沈着してしまう状態 |
水腎症 | 尿管が狭くなることで、尿の通り道や腎臓の中に尿がたまって拡張した状態 |
腹水 | タンパク質を含む体液がお腹に貯留したもの |
<腹膜播種のセルフチェック>
実際に腹膜播種の可能性がないかどうか、セルフチェックしてみましょう
- お腹が張った感じが続く
- 吐き気がある
- 便秘気味
- 皮膚が黄色くなってきた
- がんになったことがある
┃3.腹膜播種の治療方法
腹膜播種は腹膜全体に散らばるので、手術で完全に取りきることが難しい病気です。仮に肉眼的腹膜播種は取り切れていても、目に見えないがん細胞が他の箇所に潜伏していて再発してしまうことが多々あります。
そのため、腹膜播種が見つかった場合は基本的に抗がん剤による治療を中心に計画を立てていきます。抗がん剤は点滴静脈内注射や、飲み薬を使います。
また近年では注射薬を直接お腹の中に注入する腹腔内化学療法も登場。投与された抗がん剤が腹腔内全体に直接作用するので、高い濃度のままがん細胞と薬が接します。多くの量が、直に届くので、よりよい効果を期待することが可能になりました。
当院では「パクリタキセル」という薬剤を、腹腔内に注入する治療を行っています。
┃4.まとめ
がんを根治するためには、抗がん剤治療、放射線治療、手術の3つの治療法が主に使われていますが、日々進められている研究によって、副作用が少なかったり、より効果を高めたりする治療方法が出てきました。現在行っている治療の効果を高めたい、新しい治療に取り組んでみたいという人は、お気軽にご相談ください。