がん治療と一言で言っても、様々な治療法があります。今回はがん細胞が正常な組織と比べて熱に弱い特性を持つことを利用したがん温熱療法「ハイパーサーミア」について紹介します。
┃1.がん細胞の特徴について知る
がんは遺伝子の突然変異によって引き起こされる病気です。正常な細胞は通常、寿命を迎えると死滅するため、細胞分裂によって増え続けることはありません。ただし、その代わりとなる新しい細胞が生まれて身体の機能を維持し続けています。
がん細胞と呼ばれる細胞は、遺伝子が傷つくなどした異常細胞が原因。この細胞は死滅することなく遺伝子が傷ついたままの状態で細胞分裂を繰り返してしまいます。その結果、増え続けた異常細胞は大きな塊となり『がん細胞』化してしまうのです。
さらに、がん細胞は周囲に広がったり(浸潤)、他の臓器に移ったり(転移)して新しいがんを作るのも特徴です。浸潤したり、転移する際にはがん細胞が成長するため、既存の血管から伸長して新しい血管を作り出します。これは「がん新生血管」と呼ばれ、通常の血管よりも構造的に不安定で、がん細胞の転移能力を高める作用があります。
┃2.がん温熱療法「ハイパーサーミア」とは
がん細胞は通常細胞に比べて「熱に弱い」という特性を持っています。この特性を利用したのが、がん温熱療法「ハイパーサーミア」です。温水や紫外線、赤外線では身体の表面しか温められません。しかしハイパーサーミアは高周波エネルギーを利用して身体の奥深くまで浸透。がん組織のみを細胞が死滅する42.5℃以上に加熱します。こうして正常組織にダメージを与えることなく、がんの治療を行います。
<がん細胞だけ加熱される理由>
加熱する際に、正常細胞には影響なく、がん細胞のみが加熱されるのには理由があります。
高周波エネルギーを照射すると、細胞の電子が振動して、分子の摩擦熱で正常細胞、がん細胞ともに発熱します。このとき正常細胞は温まったことで血管が拡張され、血流が増えるのですぐに通常の温度まで冷やされます。しかし、がん細胞を通るがん新生血管はほとんど血管の拡張がなく、血流も少ないので蓄熱しやすい性質を持っています。またがん細胞自体が水分が多いということもあり高温になりやすく冷めにくいのです。
結果的に、温度のあがったがん細胞のみ死滅。このほか通常細胞は血流の増加によって血行が改善するので、免疫力を高める効果も期待できます。
<加熱方法>
ハイパーサーミアでは、がんの病巣を中心に体表から一対の電極をセットして加熱していきます。8MHzの高周波を与えるキャパシティブ方式によって、身体内部に高周波が流れ、そのジュール熱によって患部の温度を上昇させます。
┃3.効果的ながん温熱療法
ハイパーサーミアは、「化学療法」「放射線治療」と併用することで治療効果の増大が期待されています。
<化学療法との併用>
ハイパーサーミアで熱を加えて血流を促すことで、抗がん剤が細胞に取り込まれやすくなる効果を期待できます。また望ましい量の抗がん剤を使用できない場合にも、ハイパーサーミアを併用することで、本来の量と同等の効果を得ることもできます。
<放射線治療との併用>
放射線治療で死滅しなかったがん細胞は再び増殖し、傷ついたがん細胞組織を修復しようとします。そこでハイパーサーミアで患部を加熱することでがん新生血管などの修復を防ぐことが可能です。また放射線が作用しにくい低酸素、低pHにあるがん細胞は熱の抵抗性が低いので治療効果を補足する効果も期待できます。
┃4.がん温熱療法が適応外の人って?
ほとんどのがん疾患で対応可能ではありますが、一部の疾患は対象外となります。また進行度合いや、身体の状態によっては実施できないこともあります。
<対応できない疾患箇所>
- 脳
- 眼球
- 血液
<ハイパーサーミアが受けられない人>
- 心臓ペースメーカー、埋込型除細動器、人工内耳などを使用している
- 加温範囲にステントなどの金属を留置している
- 加温範囲に金属粉を使った刺青やタトゥーをしている
- シリコンなど豊胸材を埋め込んでいる
- 全身状態がよくない
- 栄養状態が著しく悪い
- 心臓、腎臓の機能が低下している
- 妊娠中や出産直後
- 乳幼児
- 意志疎通の困難などによって治療に危険を伴う可能性があると判断された
┃5.がん温熱療法のメリットとデメリット
ハイパーサーミアにはメリットだけでなく副作用などのデメリットもあります。きちんと医師の説明を受けた上で治療の選択をしましょう。
<メリット>
- 他のがん治療と併用可能
- がんの再発予防にも効果的
- 正常細胞を傷つけないため副作用が少ない
- 血流を改善し、免疫力を高める効果を期待できる
<デメリット>
- 加温中、皮膚にピリピリとした感じや熱を感じることがある
- まれに皮下脂肪にしこりができて、痛みがある可能性がある。通常は1~2週間ほどで消滅
- 発汗による脱水が起きることがある
- 消化器のがんで機械的な狭窄がある場合は、加温により腸管の蠕動運動が亢進して腹痛が出る場合がある
┃6.まとめ
がんの治療法は身体に負担の大きな治療もまだまだ多く、日々研究が進められてます。その中で様々な治療法が発見されたり、併用することで効果を高めるものも出てきました。現在の治療の効果を高めるためや、がん再発予防のためにも気になる治療があったら、かかりつけ医などに相談してみるのもいいかもしれません。
なお、当院ではマイクロウェーブ温熱器「マイクロウェーブ温熱器 CC-800」を使用した、がん温熱療法にも対応しています。このほかにも様々ながん治療を提供しているので気になったらお気軽にお問合せください。