一言に「腰痛」と言っても腰回りの筋肉がこわばっていたり、腰以外のところに要因があったりと原因は人それぞれです。ここでは椎間板と言われる組織が原因の腰痛を解説。椎間板が変形したことによる痛みが出た場合の再生医療を使った治療法や、メリット、デメリットのほか医院選びのポイントも紹介します。
┃1.椎間板性の腰痛について
椎間板は背骨を構成する「脊椎」を繋げる部位で、脊髄の中にある神経を守るクッションのような役割も担っています。腰に負荷がかかるなどで椎間板に亀裂が入ってしまうと、中の水分が抜けてしまい椎間板自体が硬くなってクッション機能が失われます。そうすると椎間板の変形が始まり、腰痛を引き起こします。MRIで患部を撮影すると、変形している箇所は黒く写りこみます。
椎間板変性症が悪化すると通常よりも突き出た状態(ヘルニア)になり、脊髄の中にある神経を圧迫。これがより強い痛みや痺れとして身体に現れ、最悪はうまく歩けなくなったり、排尿、排便障害が起こることもあります。
┃2.椎間板変性症の治療法について
<従来の治療法>
【内服治療】
基本的に症状が軽い場合は、痛み止めなどを飲んで安静にするという内服治療を行います。このほかにも炎症を抑える薬を飲むこともあります。急性の椎間板変性症であれば、自然と収まることもあります。
【固定術】
内服治療で症状が改善しなかったら、固定術という手術を行います。これは損傷した椎間板に変わって腰椎をインプラントで固定し、背骨を安定させる治療法です。根本治療の一つで、痛みを改善したり、運動障害を解消することはできますが、固定された脊椎は曲げたりねじったりすることができないので、可動域が狭まってしまうというデメリットもあります。またインプラントは身体にとっては異物なので、術後も痛みが出たり、再発や合併症など様々な問題があります。
<新しい「再生医療」という選択肢>
再生医療の研究が進んだことで、椎間板変性症の治療方法に新しい選択肢が加わっています。椎間板変性症で採用される新しい治療方法は「経皮的椎間板再生治療:PDR法」「脂肪由来幹細胞治療(SAST)」「椎間板移植術」の3つです。
【PDR】
PRD法は患者自身の血液を採取した後、そこから濃縮血小板由来の成長因子を抽出。濃縮血小板由来の成長因子(PRP)と幹細胞上清液を患部の椎間板に注入し、透視装置を使って損傷した椎間板に成長因子と幹細胞上清液を投与します。
当院では腰の痛みを10点満点で表現したとき、痛みが最高潮の10点という患者が、PRP注入後には2点まで軽減。さらにMRIでも変性が改善したというデータが出ました。
参考文献
藤田医科大学が特定認定再生医療等委員会の承認のもと、国内で椎間板への多血小板血漿(PRP)注射の安全性と有効性を検証
Intradiscal administration of autologous platelet-rich plasma in patients with Modic type 1 associated low back pain: a prospective pilot study
藤田医科大学「特定認定再生医療等委員会の承認のもと、国内で初めて椎間板への多血小板血漿(PRP)注射の安全性と有効性を検証」
【椎間板移植術】
東海大学が筆頭になって研究を進めているのが椎間板の再生医療技術による腰痛の治療です。2008年に世界で初めて、体外で活性化させた髄核細胞を用いて椎間板を再生させる細胞療法の臨床試験を実施しました。また、2019年には国内初の腰椎椎間板変性症を原因とする腰痛患者を対象とした国内初の治験を行い、同年には「椎間板再生医療の実用化」について発表しています。
参考文献
東海大学「椎間板再生医療の研究」
【脊椎幹細胞移植術「SAST」】
SASTとは「spine adipose-derived stem cell transplant」の略称で、「脊椎幹細胞移植術」とも言われます。椎間板や頸椎、腰椎に対して脂肪由来幹細胞を移植することで、損傷した組織の再生、修復を促して腰痛の改善を図ります。自己脂肪由来幹細胞が免疫抑制因子や抗炎症因子を分泌する機能を持つことを利用し、損傷した椎間板や脊椎の再生や修復を促し腰痛の改善を図る治療法です。
治療に使う脂肪由来幹細胞は患者自身から摂取した脂肪を元に培養します。そのため体に戻したときにも副作用のリスクが低いのも特徴です。
┃3.再生医療のメリットとデメリット
再生医療には様々なメリットがある一方、新しい治療なのでリスクも存在します。
<メリット>
- これまでできなかった根本治療が期待できます
- 痛みが軽減する可能性が高いです
- 固定術を回避できる可能性があります
- 自分自身の細胞を使う場合が多いので、安全性が高く、副作用が少ないです
- 入院の必要がなく、外来で治療できることがほとんどです
- 傷が少なく、低侵襲です
<デメリット>
- 自由診療のため保険が適応されません
- 新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
- 患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります
┃4.治療する医院を選ぶポイント
再生医療は、お腹の脂肪を採取したり、培養した細胞を再び患部に注入しなければならないので高い技術が必要です。
<ポイント①脊柱外科手術を多数経験した専門医>
脊柱外科手術は、患部にどれだけ細胞を届けられるのかが重要になります。そのため細かい調整や技術が必要です。また注入方法も、点滴投与や髄腔内投与、椎間板内(局所)投与など様々。患者の状態や症状の進行具合によって判断することも大切となります。そのため経験豊富な専門医がいる病院を選ぶことをおすすめします。
<ポイント②再生医療における厚生労働省の認可があるか>
再生医療を提供するときには「再生医療等治療計画」というものを医療機関が厚生労働大臣にあらかじめ提出することが義務付けられています。また医療機関では再生医療などの提供状況や有害事象の発生などについて定期的もしくは一定の期間内に報告しなければいけません。
┃5.まとめ
当院は腰痛治療を専門とした医師が在籍しているほか、再生医療治療計画を受理されたクリニックです。患者のお悩みに寄り添い、患者自身の希望に合わせた治療をご提供します。もしも気になることがありましたらお気軽にご相談ください。
┃YouTubeでも医療知識を紹介しています
今回の内容はYouTubeでも田中院長がお話ししています。そのほかにも様々ありますので、ぜひご覧ください。