「変形性膝関節症」は、膝の軟骨がすり減ることで炎症を起こし、膝関節が変形してしまう症状です。進行の程度に比例して痛みが強くなり、次第に歩くのがつらくなってきてしまいます。これまでは軟骨自体を再生させることは難しいとされていましたが、現在は再生医療の研究が進展したことによって根本的な治療ができるようになってきました。ここでは変形性膝関節症についてと、その治療方法を解説します。
┃1.変形性膝関節症とは?
膝関節の軟骨がすり減って関節が変形してしまい、膝に痛みや腫れが起きてしまう病気です。50歳以上の女性に多く見られる症状で、加齢による影響で進行することが多いです。そのほか、生まれつきO脚の症状がひどく出ていたり、怪我によって変形が残ってしまったりと、2次的な原因もあります。
初期は関節の表面を覆っている関節軟骨が様々な原因で徐々にすり減ってきて、関節に炎症が起こり痛みが発生します。こわばっている感覚から始まり、だんだんと正座やしゃがみ込むとき、階段の昇り降りなど、膝に負担がかかる運動で膝に痛みを感じるようになります。症状が進行すると、寝るときや安静にしているときでも膝に痛みを感じたり、完全に膝を伸ばすことが難しくなっていきます。また進行に比例して、O脚に変形していく場合がほとんどです。
<進行ステージと診断方法>
変形性膝関節症では一般的にKellgren-Laurence分類(以下KL分類)と呼ばれる指標が使われています。KL分類にはレントゲン写真を使用。主に股関節軟骨の関節面の軟骨が肥大増殖し、次第に硬くなって骨化した「骨棘(こっきょく)」と呼ばれるとげのようなものがどれだけできているのかと軟骨の現象具合によって重症度を判断し、ステージにあった治療を行います。
【ステージ1】
骨棘が見られ、関節軟骨の石灰層の下に連続している骨「軟骨下骨」が硬くなってしまう「骨硬化」が起きている状態。変形性膝関節症の疑いがあります。
【ステージ2】
膝の軟骨が減少して、膝関節の隙間が少しだけ狭くなっている状態(狭く小さくなった割合は25%以下)。骨の変形はないものの、わずかに骨棘が確認できます。
【ステージ3】
膝の軟骨が減少して、膝関節の隙間が半分以上狭くなってしまった状態(狭く小さくなった割合は50%~70%)。骨棘や骨硬化がはっきりと確認できます。
【ステージ4】
膝の軟骨がほとんどなくなって、膝関節の隙間がかなり狭く小さくなってしまった状態(狭く小さくなった割合は75%以上)。大きな骨棘が形成され、骨の変形も顕著になります。
┃2.変形性膝関節症のこれまでの治療法
変形性膝関節症の進行には「軟骨がどれだけ残っているか」というのが大きく関わってきます。軟骨は基本的に傷つくと再生しない機能。そのため軟骨が削れるのを防ぐために負担を減らすことが大切です。
<運動療法>
関節に痛みがあると、その周辺の筋肉に力を加えるのが難しくなってしまいます。膝の場合、立ち上がるときなどに負担がかかり踏ん張れなくなっていきます。その結果、患部周辺の筋力が低下して、膝は不安定に。軟骨のすり減りは進行してしまい、さらに痛みが増していくという悪循環が起こります。
そのため、リハビリをする際にはできるだけ負担のかからない方法でトレーニングを行います。
<痛み止め>
鎮痛剤などを内服することで痛みを緩和し、日常生活に支障がでないようにします。
<骨棘を削る>
関節鏡視下手術や骨切り術といった外科的治療法で、痛みの原因となっている骨棘を削ります。軟骨が十分に残っていることが条件です。
<手術:人工股関節置換術>
変形が進行していて、関節が壊れている場合は、股関節を金属などの人工材料に置き換える「人工股関節置換術」を行います。痛みの根本を改善するため、大きな効果を得られますが、人工物なので15年から20年でインプラントを入れ替える再置換手術を行う必要があります。
┃3.変形性股関節症の新しい治療法
軟骨は自己修復能力が低いので、傷つくと自然に再生することができません。軟骨組織には血管がないので、傷を治すための細胞や栄養が届けられないからです。しかし近年、再生医療の研究が進展し、軟骨も再生できる可能性が高まってきました。
軟骨の再生には「幹細胞」を使用します。
<幹細胞治療とは>
幹細胞は身体の修復や再生が必要なときに自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなる細胞です。体の修復能力を持つので、これまで難しかったとされる症状も治すことができると注目を集めています。
幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。
変形性膝関節症の治療では、患者自身の体から採取した脂肪細胞をもとに幹細胞を培養し、痛みの出ている患部に注射することで傷ついた組織を修復する再生治療です。
┃4.当院の幹細胞治療の流れ
<当院の治療メニューと料金>
医師による診察・カウンセリング:11,000円
感染症検査(採血):11,000円
幹細胞点滴(1億個):1,650,000円
幹細胞治療を行う際には、主に下記のような流れで治療を進めていきます。
①カウンセリング
事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。
②検査
感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。
③脂肪採取
腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです。
④幹細胞の培養
脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。
⑤幹細胞の静脈内投与、局所投与
培養した幹細胞を点滴、局所に投与します。
⑥経過観察
その後の効果について定期的に経過観察を行います。
┃5.幹細胞治療のメリットとデメリット
幹細胞治療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。
<メリット>
・患者自身の細胞を使っているので安全性が高く、副作用が少ないです
・今までは対応が難しかった症例も根本的に治療ができる可能性があります
・入院の必要がなく、外来で治療をすることができます
<デメリット>
・自由診療のため保険が適応されません
・新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
・患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります
┃6.まとめ
軟骨のように傷つくと自然に再生しない機能も、再生医療の発展によって回復できるようになってきました。数十年前には「難しい」と断られてしまった症状でも、今では治すことができるかもしれません。もしも気になった方や、長年悩まれている方は当院にお気軽にご相談ください。
【参考資料・論文】
1)変形性膝関節症に対して脂肪組織由来幹細胞による再生医療を施行した症例
Adipose tissue-derived stromal vascular fraction in regenerative medicine: a brief review on biology and translation. Stem Cell Ther. 2017: 8, 145. Bora P, et al.
2)Comparative Clinical Outcomes After Intra-articular Injection With Adipose-Derived Cultured Stem Cells or Noncultured Stromal Vascular Fraction for the Treatment of Knee Osteoarthritis. Am J Sports Med. 2019: 47, 2577.Yokota N, et al.
3)Intra-Articular Injection of Autologous Adipose Tissue-Derived Mesenchymal Stem Cells for the Treatment of Knee Osteoarthritis: A Phase IIb, Randomized, Placebo-Controlled Clinical Trial. Stem Cells Transl Med. 2019: 8, 504. Lee WS, et al
4) Adipose Mesenchymal Stromal Cell-Based Therapy for Severe Osteoarthritis of the Knee: A Phase I Dose-Escalation Trial. Stem Cells Transl Med. 2016: 5, 847. Pers YM, et al.
5)Human adipose-derived mesenchymal stem cells for osteoarthritis: a pilot study with long-term follow-up and repeated injections. Regen Med. 2018: 13, 295. Song Y, et al.
6)Intra-articular Injection of Mesenchymal Stem Cells for the Treatment of Osteoarthritis of the Knee: A 2-Year Follow-up Study. Am J Sports Med. 2017: 45, 2774. Jo CH, et al.
7)Mobilization of bone marrow-derived mesenchymal stem cells into the injured tissues after intraarticular injection and their contribution to tissue regeneration. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2006: 14, 1307. Agung M, et al.