日本人の死因の第三位でもある脳卒中。回復したとしても脳の細胞が死んでしまったことで、麻痺などの後遺症が残ることも少なくありません。生活に支障が出たり、介護が必要になることも。これまでは後遺症に対症療法しか手立てがなかったのですが、近年の再生医療の研究成果によって根本治療ができる可能性が高まってきました。ここでは脳卒中における幹細胞を使った再生医療について紹介します。
◆目次
1.脳卒中とは?
2.脳卒中の後遺症について
3.後遺症を克服する具体的な方法
4.幹細胞治療の流れ
5.幹細胞治療のメリットとデメリット
6.まとめ
┃脳卒中とは?
脳卒中とは、脳の血管が詰まったり破れたりすることで、脳に栄養分がいきわたらなくなり脳の細胞が死んでしまう病気です。場合によっては回復しても後遺症として、麻痺などの運動能力の低下のほか、感覚異常や感覚鈍麻、うつ状態や意欲の減退などの精神症状、また失語や失認などの高次脳機能障害、認知症が起こることもあります。
<脳卒中の主な種類>
【脳梗塞】
脳の血管が詰まって血液量が少なくなることで、その血管のまわりの脳神経細胞が死滅し、機能障害を起こしてしまう病気です。致死率は低いとされていますが、体の片側が麻痺するなどの後遺症が残る場合も少なくありません。
【脳出血】
脳の血管が破れてしまう病気です。脳の細い血管が破れて脳組織内に出血すると、脳細胞を破壊したり、脳組織を圧迫したりして突然の激しい頭痛や片側の顔や手足の麻痺、ろれつの障害、視力や視野の異常など様々な症状が起こります。
【くも膜下出血】
脳動脈瘤と言われる血管のふくらみが突然破裂することによって起こります。脳動脈瘤とは、血管の壁が薄くなったり、もろくなるとコブのような形状になっていることを指します。これが破裂することで、激しい頭痛や意識障害、嘔吐などの症状が現れます。
┃2.脳卒中の後遺症について
脳卒中を引き起こして生存したとしても、ほとんどの場合は後遺症が現れます。後遺症の主な症状として次のものがあげられます。
【運動障害】
・麻痺によって、体の片側の手足の力が入らない
・体のバランスが取れない
・無意識に体が動いてしまう など
【言語障害】
・呂律が回らない
・言葉が思い出せない、出てこない
・話が理解できない
・うまく会話できない など
【感覚障害】
・感覚が鈍い
・しびれる など
【その他】
・高次脳機能障害(感情のコントロールが難しくなって対人関係に支障が出てしまう)
・認知機能の低下
・痙縮(けいしゅく/手足の突っ張り)
┃後遺症を克服する具体的な方法
脳卒中の後遺症は、これまで主にリハビリで回復を図っていました。ただし、近年では再生医療の研究が進み、損傷した脳組織を再生させる「幹細胞治療」にも注目が集まっています。
後遺症に対して対処療法を取るリハビリに対して、幹細胞治療は損傷した組織を回復させることが目的なので根本治療を期待することができます。
<幹細胞治療とは>
幹細胞とは体の修復能力を持つ細胞。身体の修復や再生が必要なときにも、自ら細胞分裂を行い、傷ついたり不足した細胞の代わりとなります。
その幹細胞は分裂して同じ細胞を作る能力を持った「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」の2種類に分けられます。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞へ分化することができます。
脳卒中の後遺症の治療に骨髄由来の幹細胞や臍帯血幹細胞の使用が多く見られます。これらの幹細胞は、損傷した脳組織に移植されると、神経細胞や血管細胞に分化して脳組織の再生を促進するとされています。
患者自身の細胞を使用するので副作用が少ないのも特徴です。
<幹細胞治療で期待できる効果>
・麻痺、しびれの改善
・炎症、痛みの緩和
・再発防止
・リハビリ効果を高める
┃幹細胞治療の流れ
幹細胞治療を行う際には、主に下記のような流れで治療を進めていきます。
①カウンセリング
事前に服薬情報やMRI画像などをご用意していただいた上で、医師がカウンセリングを行います。体調や既往歴、服薬中の薬、リハビリ状況などを伺います。
②検査
感染症の有無を調べるための血液検査や、胸部のレントゲン検査、心電図検査などを行います。
③脂肪採取
腹部からごく少量の脂肪を採取します。入院などは不要な場合がほとんどです。
④幹細胞の培養
脂肪細胞から幹細胞を分離、培養します。培養には約3週間を要します。
⑤幹細胞の静脈内投与
培養した幹細胞を点滴で静脈内に投与します。
⑥経過観察
その後の効果について定期的に経過観察を行います。
┃幹細胞治療のメリットとデメリット
幹細胞治療はさまざまなメリットがある一方、新しい治療であるためリスクも存在します。
<メリット>
・患者自身の細胞を使っているので安全性が高く、副作用が少ないです
・今までは対応が難しかった症例も根本的に治療ができる可能性があります
・入院の必要がなく、外来で治療をすることができます
<デメリット>
・自由診療のため保険が適応されません
・新しい治療法のため、長期での体への影響が確認されていません
・患者自身の再生力を利用した治療法なので、効果が現れるまでに個人差があります
┃まとめ
医療は日々の研究により、どんどん新しい治療法が開発されています。数年前には根本治療の方法がなく、対処療法しか選択できなかった症状も現在開発されている先進医療であれば対応することができるようになっているかもしれません。もしも気になった方は、まずは病院やクリニックに話を聞いてみるのもいいかもしれません。
参考資料
・厚生労働省発表
心疾患-脳血管疾患死亡統計の概況 人口動態統計特殊報告