「再生医療」は臓器や関節などの身体の部位が悪くなったとき、細胞や人工的な材料を使って機能障害や機能不全に陥った部位を回復させる治療方法です。2014年9月には世界で初めてiPS細胞を使った手術が行われ、脳梗塞や心筋梗塞、肝障害、リウマチ、パーキンソン病といったこれまで有効な手立てがなかった疾患も治療ができるようになってきました。ここでは再生医療について詳しく説明します。
再生医療とは本来、人間が持っている「再生する力」を利用した治療方法。病気や事故などで失ってしまった体の組織を根本的に元通りにすることを目指しています。
人間の再生能力は「幹細胞」によって支えられています。幹細胞とは血液や皮膚、脂肪のように消えていく細胞の代わりを作り続ける「組織幹細胞」と、体の細胞であればどのような細胞でも作り出すことができる「多能性幹細胞」の大きく2種類に分けられます。
<組織幹細胞>
組織幹細胞はどんな細胞にでもなれるわけではありません。血を作る「造血幹細胞」であれば血液系の細胞、「神経幹細胞」であれば神経系の細胞のみにしかなれないとされています。組織幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨髄や脂肪、歯髄、へその緒、胎盤などの組織に存在する体性幹細胞の一種で、さまざまな細胞に分化できる能力を持つ細胞です。
<多能性幹細胞>
体の様々な組織幹細胞を作り出すことができる細胞です。胚の内部細胞塊を使って作られた「ES細胞(Embryonic Stem Cell)」や、人工的に作った多能性幹細胞「iPS細胞(Induced Pluripotent Stem Cell)」などがこれにあたります。
再生治療は腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、脳卒中、脊髄損傷、動脈硬化、変形性関節症、腰椎症、パーキンソン病、心不全、肝硬変など様々な部位の改善で用いられています。
疾患を治すだけでなく、美容でも主に肌の治療で活用されています。コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などの美肌成分を生成する幹細胞である「線維芽細胞」を移植し、増やすことで肌細胞を活性化。しわ、たるみなどの老化症状が起きていても、次第にハリや弾力が戻ってきます。
┃再生医療の具体的な治療方
再生医療と一言で言っても、様々な療法があります。ここでは主な再生医療をまとめました。
<PRP療法・PFC-FD療法>
患者自身から採取した血液から血小板を取り出して、傷ついた組織に注入し、修復を促す方法。治療には血小板濃度を高めた「血漿」を使います。
【適応疾患】
腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、頸椎神経根症変形性関節症(膝・足関節など)、靭帯損傷(肘・膝・足関節など)、膝関節軟骨損傷、半月板損傷、膝蓋腱炎上腕骨外側上顆炎(テニス肘)、肘内側側副靭帯損傷(内側型野球肘)、アキレス腱炎、足底腱膜炎肉離れ、肩腱板損傷、手関節TFCC損傷など
<ASC治療(脂肪由来幹細胞治療)>
患者自身の体から採取した脂肪細胞をもとに幹細胞を培養し、幹部に注射することで傷ついた組織を修復する再生治療。従来はできなかった軟骨などの修復が可能です。
【適応疾患】
脳卒中、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、脊髄損傷、加齢による身体的生理機能の低下、スポーツ外傷などによる運動器障害、動脈硬化、慢性疼痛、認知機能障害、神経変性疾患、慢性肺疾患、心不全、慢性腎臓病、肝機能障害、炎症性腸疾患、動脈瘤、糖尿病、不妊症、脱毛症など
<幹細胞培養上清液(エクソソーム点滴)>
エクソソーム点滴療法は、エクソソームを血管内に点滴投与し全身に届けることで、血管内皮組織の抗炎症、抗酸化を促進。弾力のあるしなやかな血管へと導く治療です。定期的な投与により血管の新生も促し、全身の健康維持や身体と脳のパフォーマンス向上を見込むことができます。
【適正疾患】
神経後遺症、顔面神経麻痺、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、脳卒中、自閉症、AGA/FAGAなどの薄毛の改善、疲労回復、腰痛などの軽減、アンチエイジング効果
┃再生医療の副作用について
自分自身の細胞を採取し治療を行うので、化学物を使った薬での治療よりも体の拒絶反応も少なく、副作用はほとんどありません。ただし、体の中に幹細胞を戻す際、関節などが急激な変化に耐えられず、幹部に痛みや腫れが出ることも。炎症を起こしているわけではないので、症状は数日で収まることがほとんどです。
┃まとめ
再生治療はまだまだ可能性を秘めた分野で日々研究が進められています。現在、根本治療が難しいとされている病気も将来、治せる病気になっている日が来るかもしれません。