頸椎症
(脊髄症・神経根症)
首の骨のことを「頸椎」と呼びます。背骨の胸部の骨である「胸椎」、背骨の腰部の骨である「腰椎」とともに背骨を構成しています。
頸椎は7つ連なる椎骨、そしてそのあいだに挟まれる椎間板から構成されています。
頸椎症とは
頸椎症とは、頸椎の加齢によって椎間板が変性したり、靭帯が厚く硬くなることで、首の痛みなどを発症している状態を指します。
神経根や脊髄が圧迫されると、肩まわりや腕、手など痛み・しびれといった神経症状を伴います。
頸椎症性脊髄症
頸椎症のうち、脊髄が圧迫され、手や足などに痛み・しびれなどをきたすものを指します。
頸椎症性神経根症
頸椎症のうち、神経根が圧迫され、身体の片側に痛み・しびれをきたすものを指します。
原因
まず原因として、加齢が挙げられます。加齢によって弾力性の失われた椎間板が変性したり、靭帯が厚く硬くなったり、骨棘が形成されるなどして、脊髄や神経根が圧迫され、痛み・しびれといった症状をきたします。
また、(パソコン作業などで)日常的に首を反らしているといった不良姿勢も、脊髄症の発症に影響しているものと考えられます。
症状
頸椎症性脊髄症と頸椎症性神経根症では、痛み・しびれの症状の現れ方が異なります。
頸椎症性脊髄症
首の後ろの痛み
首のうち、特に後方部に痛みが出やすいという特徴があります。
また首を反らしたとき、痛みが出現・増大しやすくなります。
両方の腕・手のしびれ
左右両方の腕や手などに、しびれが生じます。
手足の知覚異常
手や足において、触れていないのに触れている感じがする、といった知覚異常が生じることがあります。
手先を使う細かい作業の困難
箸を使う、ボタンを掛ける、字を書くといった日常生活に不可欠な動作が難しくなったり、時間がかかるようになります。
歩行障害
足が前に出ない、速く歩けない(信号が変わる前に渡り切れない)、階段を降りるのがこわいといった症状が見られます。
膀胱直腸障害
排泄機能の低下を伴うケースも見られます。
頸椎症性神経根症
首の後ろの痛み
頸椎症性脊髄症と同様の症状です。
首の後方部に痛みが出やすく、また首を反らしたときに痛みが増大します。
片側の腕・手のしびれ
左右どちらかの腕や手にしびれが生じます。
首・手の知覚異常
首まわりや腕、手に置いて、触れていないのに触れている感じがする、という知覚異常が生じることがあります。
頸椎症の検査・治療法
【検査・診断】
問診、触診の上、レントゲン検査、CT検査、MRI検査などを行い、総合的に診断します。
また必要に応じて、骨密度検査を追加することがあります。
【治療法】
痛みがないか少なく、しびれも軽度である場合には、安静にしながら経過観察を行います。
症状が強く現れている場合には、以下のような治療を行います。
装具療法
頸椎カラーなどを用いて、首の安静を保ちます。
薬物療法
非ステロイド性消炎鎮痛薬、筋弛緩薬、あるいは神経障害性疼痛治療薬、神経ブロック注射などの薬物療法を行います。
頸椎症の予防・改善
予防のため、あるいは治療の際には、以下のような点に気を付けてください。
日常生活の注意点
頸椎症脊髄症の場合
- 首を前後に動かすこと・回すことを避ける
- うつ伏せ寝をしない
- 首を前に突き出す、背中を丸める姿勢を避ける
頸椎症神経根症の場合
- 首を伸ばすことを避ける
頸椎椎間板ヘルニア
頸椎椎間板ヘルニアとは
頸椎椎間板ヘルニアとは、頸椎(首の骨)で起こる椎間板ヘルニアです。
椎骨と椎骨のあいだでクッションの役割を果たしている椎間板が飛び出すことで神経が圧迫され、さまざまな神経症状をきたします。
椎間板ヘルニアは発症した部位によって頸椎椎間板ヘルニア、胸椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間板ヘルニアに分けられますが、頸椎椎間板ヘルニアは腰椎椎間板ヘルニアと比べると稀な病気です。
頸椎椎間板ヘルニアの原因
主な原因は、加齢だと言われています。
また、不良姿勢、特定の職業・スポーツなどが首に負担をかけることが、発症に影響すると言われています。
頸椎椎間板ヘルニアの症状
頸椎椎間板ヘルニアの主要な症状は、痛みとしびれです。
ただ、その現れ方は多様です。
部位別症状
首・肩の場合
- 首の痛み
- 肩、背中の痛み
- 胸の痛み
腕・手の場合
- 腕や手の痛み、しびれ
- 手のむくみ
- 握力の低下
頭部・顔面の場合
- 頭痛
- 後頭部の痛み
- 頭痛、目の奥の痛み
- 眼精疲労
- 目の充血
- 耳鳴り、めまい、ふらつき
下半身の場合
- 脚のつっぱり感
- 歩行障害
- 頻尿、尿失禁
頸椎椎間板ヘルニアになりやすい人の特徴
- 30~50代の方
- 姿勢の悪い方
- 長時間のデスクワークをする方
- 激しいスポーツをする方
- 重いものを持つなどの肉体労働をする方
- 喫煙している方
- 頸部椎間板ヘルニアの家族歴がある方
頸椎椎間板ヘルニアの検査・治療法
検査・診断
問診や触診の上、レントゲン検査、MRI検査などを行い、総合的に診断します。
治療法
頸椎カラーによる装具療法、消炎鎮痛剤などを用いた薬物療法を行いながら、安静に努めます。
エコーガイド下筋膜リリース、手術などが行われることもあります。また当院では、椎間板ヘルニアに対する低侵襲レーザー治療、PLDD法にも対応しています。
PLDD法(経皮的レーザー椎間板減圧術)
レーザーを頸部椎間板内の髄核に照射することで、椎間板の縮小と神経の圧迫の軽減を図る治療です。
背中側から針を刺し、その先からレーザーを照射します。傷痕が目立たず、入院も必要ありません。その日のうちに、ほぼ通常通りの生活に復帰していただけます。
頸椎後靱帯骨化症
頸椎後靱帯骨化症とは
頸椎後靭帯硬化症とは、脊髄の前側にあり頸椎を縦につないでいる「後縦靭帯」が大きく厚みを増し、かつ骨のように硬くなることで、少しずつ脊髄が圧迫される病気です。
欧米人と比べて、日本人の罹患の割合は高くなります。また頸椎後靭帯硬化症のはっきりとした原因は分かっておらず、厚生労働省より難病の指定を受けています。
頸椎後靱帯骨化症の原因
なぜ後縦靭帯が肥厚するのか、なぜ骨化が起こるのか、はっきりとしたことは未だ解明されていません。
ただこれまでに、遺伝子異常、ホルモン異常、カルシウム代謝異常、糖尿病、加齢などが発症に影響しているとの指摘がなされています。
頸椎後靱帯骨化症の症状
頸椎後靭帯硬化症の主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
まったくの無症状で、検査で偶然発見されるケースも見られます。その一方で、四肢の痛み・しびれといった神経症状が急激に進行することもあります。
- 首や肩の痛み、動かしにくい
- 腕や手の痛み、しびれ
- 足のしびれ、脱力感
- 歩きづらい、すぐに転ぶ
- 便や尿が出にくい(膀胱直腸障害)
頸椎後靱帯骨化症の
検査・治療法
検査・診断
問診や触診の上、レントゲン検査を行い、診断します。
その他必要に応じて、CT検査、MRI検査を組み合わせます。
治療法
軽症に留まる場合には、経過観察を行うこともあります。
なお、いずれの治療を行う場合も、日常生活では首に負担のかかる姿勢・動作は避けてください。
保存的療法
主に鎮痛剤や筋弛緩剤を使用し、頸椎カラーを用いるなどして安静に努めます。
また、必要に応じて物理療法・運動療法を組み合わせます。ビタミンB剤の投与、頸部のマッサージが有効になることもあります。
手術
保存的治療で良好な結果が得られない場合、日常生活への支障が大きい場合には、手術を検討します。
靭帯の骨化の程度、患者様の年齢などに応じて、以下のような術式が使い分けられます。どちらも、顕微鏡を使った手術です。
頸椎前方到達法
全身麻酔にて、仰向けの姿勢で、首の前方から行う手術です。
首の前側から切開し食道・気管を避けて頸椎に達したら、その一部を削るとともに、脊髄を圧迫している病巣を摘出します。削られた頸椎については、腰の自家骨または人工物で補います。
頸椎後方到達法(頸部脊柱管拡大術)
全身麻酔にて、うつ伏せの姿勢で、首の後方から行う手術です。
首の後ろ側から切開して椎弓(椎骨の後方部分)に達したら、椎弓を持ち上げて脊柱管を拡大し、脊髄の圧迫を軽減します。これにより生じたスペースは、人工物を入れて固定します。